グランドライン、新世界の外れ。
人の住まない鬱葱と生い茂る熱帯雨林に囲まれた島がある。
動物たちは原色に着飾り、木の実は自己主張激しくたわわに生っている。
しかし、ここには似つかわしくない影が二つ。
片方は漂流してきた男
片方は美しい青の羽に身を包む鳥
美しい鳥は意識はなく、しかし鼓動は力強く打っている。
翼の付け根には銃で撃たれた傷があり、血は固まっているがうっすらと出血している。
男は鳥を見降ろし、そして抱き上げ連れ去った。
美しかったのだ。
その鳥があまりにも美しく、神々しかった。
そしてとある文献の一節を思い出し、確信した。
”不死鳥”
青い鳥はとんでいった 1
マルコはひどく深い眠りの淵から急に引き上げられた。
意識は覚醒しても体は動かない。
どうやら思った以上に傷は深いらしい。
親父の命で、ある島を偵察に行っていた。
飛行系の能力者は偵察にはもってこいだ。
以前は幹部である自らが直接動くことはなかった。
しかし今は2番隊に若き隊長を迎え、1番隊隊長としての負担も減りつつある。
文字通り、羽を伸ばしてこいと今回の任務があてがわれた。
任務内容は比較的単純で明快だった。
親父の昔馴染みが納める島を荒らしている輩が現れた。
連中の戦力を見極めて、一人でやれそうならやれ。
実際問題は一人で片付けて後はのんびりと休暇がてらに事後処理をしてこいとのこと。
島は夏島だったしリゾート地としても申し分ないところだ。
何度か訪れたこともあり、なじみの女も何人かいる。
久々の休息に少なからず浮足立っていた。
しかし、ふたを開けれみれば状況はこじれていた。
領主は奴らをけして殺さずに捕まえてくれと嘆願した。
そして、奴らにはマルコの動きが漏れているようで捕まえることができない。
アジトに踏みいればもぬけの殻、よく現れるという場所を張ってみても現れない。
内通者がいるのではないかと領主に詰め寄ったところ、どうやら不逞の輩は領主の息子とつながっているらしく
こちらの動きなど筒抜けであったらしい。
どんなに穀つぶしで出来の悪い息子でも可愛いのだ、だから殺さずに更生させてほしいというのが領主の願いだった。
マルコにしてみれば親のすねをかじった甘すぎるバカ息子は海にでも捨てちまえと、どうでもいいことだったが
領主は親父の馴染み、無碍にすることもできずに了承するしかなかった。
捕まえた時に2,3か月は起き上がれないほどぶん殴ってやればいい。
それが終われば俺の自由は保障されているんだ。
領主の息子はバカだが頭は悪くなかったようだ。
マルコが能力者であることなど重々承知で、対策をとっていた。
海楼石は手に入らなかったものの、それに匹敵するものを手に入れたという。
それは海楼石とは逆の作用を持つのだという。
海楼石が能力者の能力を消すものならば、それは能力者の能力を発動し続けさせるという。
つまり、能力者を自身の能力に飲み込ませるというもの。
極端にいえば、ロギア系のものならば自然の一部となってしまい自我を失うというものらしい。
金にものを言わせ、全く恐ろしいものを手に入れたものだ。
マルコは呆れ半分、感心半分でバカ息子と対峙し打ちのめした。
どれほど良い道具を持っていようと、実力がものをいう世界に身を置くマルコにとって弱すぎる。
しかし、相手が弱すぎることで油断していた。
マルコが覚えているのは、はめられた輪と醜く笑った領主の息子の顔
そこからの記憶はひどく断片的であったが、どうやら不死鳥と化した自分はバカ息子たちを完膚なきまでに痛めつけたようだ。
理性がなかった分こちらもいくらか傷を負った。
そして奴らを殺していなかったことにマルコは信じてもいない神に感謝した。
これで親父の面目は守られた。
受けた傷を治すこともなくとにかく滅茶苦茶に飛び続け、この島にたどり着いた時力尽きたようだ。
体力の消耗が甚だしく、体に力も入らない。
受けた傷もじくじくと痛む。
「ふぁーあ、今日も一日頑張って生き延びるぞーっと」
マルコは今までの経緯を整理していた思考に響いた声に驚き、目を開けた。
目の前には男が眠そうにあくびをしながら伸びをしている。
よくよく見れば自分は綺麗とは言えないベットに寝かされていた。
「お、目が覚めたか?よかった〜このまま死んじまうんじゃないかって冷や冷やしたんだぜ」
「クァ・・・クアアアアア!?」
お前は誰だと男に問いかけた自分の声に驚いた。
声が鳥のまま、いや、まだ体は不死鳥のままだった。
「お、おいおいまだおとなしくしとけって!傷口開いちまう!」
「・・・・・・」
首元に締め付けられる感覚がある。
おそらく、あの石の効果はまだ続いている。
しかしマルコが暴れたせいで石自体にも損傷があり、効果が不完全となっているのだろう。
自我は戻ったが体は戻らない。
目の前の男はマルコを本当に鳥として助けた。
本当は人間で、あの不死鳥のマルコとは知らずに。
死ななくてよかった。
海賊としての覚悟を胸に数々の死線を乗り越えたマルコだが、この時ばかりは心の底から安堵した。
まだまだやり残したことは数え切れないほどある。
俺が死んだら誰があのバカどもをまとめンだよい。自分はこんなところで死んではいけない。
自分を救ってくれた目の前の男に心の底から感謝した。
「大丈夫か?やっぱ傷口開いたのかな・・・ごめんなぁ、俺鳥の治療なんてしたことねぇから下手くそで・・・痛くねぇか?」
急におとなしくなったマルコを心配し、男は優しく問いかけた。
確かに包帯の巻き方は少々乱れていたが、しっかりと手当されており、この男が自分をひどく心配してくれているとわかった。
こいつは嫌いじゃない。
マルコは直感でそう思った。
騙し合いが日常茶飯事のマルコにとって、純粋にたかが鳥の安否を心配する男は新鮮だったのだ。
「おとなしくしとけよ?まだ動いちゃ駄目だからな。」
マルコの様子を一通り確認した男は、愛情を込めたまなざしで見つめ体をそっと撫ぜた。
男の眼差しがマルコにはくすぐったくて仕方がない。
自分はれっきとした人間だと言いたいが言葉か話せない上に動けないマルコには伝えることは無理だ。
しばらく男はわずかに微笑みを浮かべながらマルコを落ち着かすように撫ぜ続けた。
「もうちょっと寝とけよ。目が覚めるまでに飯用意しとくからさ。」
おかしい、体を撫ぜられるのはこんなに気持ち良かっただろうか。
まどろんだ意識のうちでそんなことを思いながらマルコは再び眠りの淵へと意識を沈めていった。