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「・・・・・ん?」

あぁ、寝ちまってたのか。


薄暗い部屋にはベットと締め切られた窓、それに浴室があるだけだった。
窓際に置かれたベットの上には男が一人寝そべっている。
男は傍らに置いてあったピッチャーから直接水を飲む。

「ぷはぁ、ぬるいな。結構寝ちまったか。」

男が窓を開けると太陽は水平線へと沈もうとしていた。
眼下に広がる街並みは夕食を求める人々でにぎわっていた。
もうそんな時間か、と男も自身が食べ物を求めているのに気づいた。

「飯、食いに行くか。」

男はそう距離のない扉へと足を進め、部屋の外に出た。
部屋の外は廊下になっていた。
横にもまた同じ扉があり、階段の下からはウエイトレスが注文を取る声や人々が陽気に食事をする声が聞こえてくる。
どうやらここは宿を兼ねた飲み屋のようだ。
男は階段へと足を進め、下へと降りて行った。

「オヤジ、酒となんか適当に見繕ってくれ」

男はカウンター席に腰を下ろし、店主に注文をした。
しかし店主は申し訳なさそうに頭を下げた。

「あぁ、お客さん。悪ぃんだが今日はもう材料が底突いちまったんだ。」

「は?」

「今出てるのが全部出よ。あそこの海賊がほとんど食っちまいやがった。すまねぇな。」

「全部って・・・。」

信じられないと思いながら店主の指差した方を見るとなるほど、納得がいった。
あの食いっぷりなら店ごと食えるだろう。




「あ!ルフィてめぇ人の皿から取ってんじゃねぇよ!」

「んぐ、残してんのかとおもったんだ、ししし!」

「んなわけねぇだろ!このキャプテーンウソップ様が残すのはキノコだけだ!」

「あんたらうっさい!もっと静かに食べなさい!」

「酒、樽で持ってこい」

「オレはジュースが良いぞ!果物のやつ!」

「あら、これおいしいわね。」

「んん、ロビンちゃ〜ん!俺のレシピに追加しとくね〜!」







「なんか、すげぇな・・・」

「でしょう?お客さんには悪ぃが別の店に行ってもらえるか?」

「そうだなぁ・・・」

このまま別の店に食いに行のもなんだか億劫だな。
けど酒だけ胃に流し込むのも気が引ける。
食えるときに食っておかないとこのグランドラインでは命取りになりかねない。
面倒だが他を探すか、と腰を上げかけたときふと気になった。

「ん?あいつら海賊っていったか?」

「へぇ、お客さん知らねぇんで?麦わらのルフィですよ。あの1億の賞金首になった。」

立ち上がりかけた椅子にすわり直す。
どうやら頭がしっかり起きなかったようだ。
見忘れるはずがない、あの印象的な手配書を。

「そうか、あいつが・・・」

「お客さん賞金稼ぎかい?悪いことはいわねぇ、あいつらはやめときな。さっきからあんたみたいなのが何人かやられてるよ。」

男の様子から察したのか店主が忠告する。
しかし男の視線は海賊たちに鋭く向けられたままで椅子から立ち上がった。

「ああ、賞金稼ぎじゃねぇよ。」

「ならいいんだ。命は粗末にしちゃいけねぇ」

ホッと胸をなでおろしながら話す店主を遮って男はそのまま海賊たちに近づいて行った。








「ぷふぁ!食った食った!」

体中が丸くなるほど食べ物を詰め込んだ少年が満足そうに声をあげた。
それを横の少女が呆れたように見ている。

「全く、食べすぎよ!誰がお金払うと思ってんの、ったく!」

そろそろ帰るかと、全員が腰を上げかけたタイミングに男が一人近づいてきた。

「こんばんは、麦わら海賊団の皆さん」

「あぁ?誰だてめぇ?」

緑髪の男が眼光鋭く睨みつけた。
しかし男はひるまずに顔に嘘くさい笑顔を張り付けたまま言葉を紡いだ。

「そんなに睨まないでください。ルフィさんに用があるだけですから」

「んぁ?俺に用があんのか?」

「そうです、あなたに用があるんです。お頼みしたいことがあって」

「なんだぁ?」

「手を見せてもらえませんか?」

「手?」

「はい、手を見せてください」

ルフィと呼ばれた少年は変な奴だなぁと笑いながらほらよ、と男の前に両手を突き出した。

「ありがとうございます、噂通りいい人だなぁ。・・・でもその素直さ、命取りになりますよ」

男はルフィの手を握った方思うと強く自身の方にひっぱり、のばされた両手に手錠をかけた。
それと同時に緑髪の男が刀を抜き、襲いかかってきたがルフィを盾のように前に突き出した。

「おっと、動かないでください。船長がどうなっても知りませんよ。」

「てめぇ・・・!」

「この手錠、海楼石でできてますから、力入んないでしょ?」

男は楽しそうに笑っている。
反対に首をロックされているルフィは苦しそうに顔を歪ませている。

「このクソ野郎!何モンだてめぇ!」

「俺は・・・」

男が口を開いた瞬間、男の背中から二本の腕が伸びた。
二本の腕は男の首をとらえ、思い切り後ろへと引っ張った。

「クラッチ」

「うっ・・・!」

男の手はルフィから離れ、緑髪の男と金髪の男に床に抑えつけられた。

「ロビン!よくやった、オレの指示通りだ!」

「そ、そうだったのかウソップ!すげー!」

「おうよ!ゾロ、サンジしっかり押さえとけぃ!」

「「・・・お前な」」

抑えつけられながら男はロビンから目を離さない、いや離せない様子でいた。
信じられないという様子がありありとわかる。

「ロビン?・・・お前ニコ・ロビンか?なんでこんなところに・・・?」

「てめぇ、どこのどいつだかしらねぇが良くもやってくれたな。」

「クソ野郎が、さっさと手錠のカギ出しやがれ」

ゾロと呼ばれた男が男の腕をさらに強く締め上げ、サンジと呼ばれた男は男の頭を踏みつけた。
2人の男に締めあげられ、さすがに苦しそうな表情を浮かべた。

「うぐぅ!カ、ギは・・・部屋に、ある・・・」

「っち、ウソップ、チョッパー、こいつの部屋からかぎ取ってこい」

「サ、サンジ・・・いくらなんでも勝手にっていうのは・・・」

「良いから取ってこい!!」

「はいぃぃぃ!!」

鼻の長い少年と動物のようなものが階段へと走って行った。
押さえ込まれている男の前にオレンジの髪をした少女がしゃがみこんだ。

「まったく、なんなのよあんた?何が目的なの?」

「・・・」

男は少女を笑ったまま見上げるだけだった。

「てめぇナミさんが聞いてるだろうが!答えやがれ!」

金髪に青年は男の後頭部に蹴りを入れ、男の顔が激しく床へと叩きつけられた。

「いってぇな・・・」

「答えろっていってんだよ!」

もう一度蹴りを入れようとした時、ロビンと呼ばれた女が口をはさんだ。

「あなた・・・まさかあの時の・・・」

「ロビンちゃんこいつのこと知ってるの!?」

「ロビンの知り合い?にしては物騒だけど・・・」

ロビンが口を開きかけた瞬間、二階からあわただしくウソップとチョッパーが駆け下りてきた。

「おい!大変だ!」

「大変だぞ!」

「うるさいわね!なんだってのよ!カギは見つかったの!?」

「カギ、どこにもないんだ!」

「それよりコレ!!」

鼻の長い少年が手に持って広げていたものは彼らの宿敵の象徴「MARIN」と書かれたシャツだった。

「か、海軍!?」

「やっぱりそうね。あなたはあのときの・・・」

ロビンは男の頭に手を載せて懐かしそうに撫でた。

「海兵さんね。」

「久しぶりだな、ニコ・ロビン。」





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