意識を浮上させたのはまたもや旨そうな飯の匂い
そして男の唄だった
何の唄かは解らないがいい唄だと思った




青い鳥はとんでいった 3





飯を両手に扉から入ってくる男を見上げると
男は嬉しそうに笑った。


「おー、今日は起きた!」

「くぇ?(今日は?)」

「お前あれから2日寝っぱなしだったんだぞー」


おかげで俺は2人分の飯食ったんだからなと言った男の顔は笑っている。
2日間も眠っていたのか、どおりで腹が減るわけだ。






「怪我の具合どうだ?傷口結構ふさがって来てると思うんだけど」


男の言った通り、傷口の痛みは随分引いた。
それに体力も戻ってきたようだ。
今なら自己治癒ができそうだった。

しかし、しなかった。

マルコは男に興味を持ってしまった。
自分を綺麗だといったこの男に。
だからあえて、自己治癒をせずに居座ることにしたのだ。
それに傷が治ったとしても身動きはとれない。

「(手厚い看護ってのも悪かねぇよぃ)」



男はマルコの翼から包帯を取り、薬を施し新しい包帯を巻きなおした。
おそらく寝ている間もこまめに取り換えてくれていたのだろう。
包帯を巻く手つきもこなれてきていた。

「まだ動けそうにはねぇけど、だいぶ良くなってんな!ほい、飯食ってもっと良くなれ!」

ベットの上で2人でとる食事は今日も旨かった。
そして扉の隣の窓から今日はカーテンが取り除かれ、気持ちいい朝の光が差しこんでいた。






体力が戻りつつあるマルコには空腹を満たした後に睡魔はすぐ来なかった。
眠れない、眠くない。
朝食を取った後、男は外へと片付けに行った。
この山小屋の水道やコンロは長い間放置されていたため使い物にならないようだ。
火は外で起こし、飯も外で作る。
水は少し離れたところに湖があるらしく、食器はわざわざ洗いに行きついでに飲み水を汲んでくるらしい。


体も動かせねぇし、暇だよぃ。





今白ひげ海賊団はどうなっているだろう。
あのバカ息子が事情はだいたい話すだろうが、生きていることを知っている者はいない。
身も心も不死鳥となり、どこかへ飛んで行ってしまった自分を
仲間は探してくれているのだろうか、それとも・・・


あの船には自分がいなければと思うのは己だけなのかもしれない
ここに来た時点でもう4日以上は経っているのだ。
我を失っていたのは一体どれくらいの時間なのか
自分が何日船から離れているのか


文明からかけ離れたこの場所で知る手段はない。


ログポースがない今、海に出るのは死にに行くようなものだ。
闇雲に飛んでもどこかの島まで体力が持つかどうか

仲間たちは、自分を死んだと思っているかもしれない
1番隊の隊長には別の奴がおさまっているかもしれない

もう自分の居場所がないかもしれない




「(・・・何、弱気になってんだよぃ)」


今の状態に暇は危険だ。
傷口の疼きと熱が心を弱らせる。
少し、参っているようだ。マイナスな思考にばかり傾く。

あの男は良く一人で耐えられたものだ。
多少立場は違えど、あの男も小隊長だった。
部下のこと、船のことを気に掛けることもあるだろう。


「(あいつはどんだけここにいるんだろうねぃ)」




外から、調子はずれな鼻歌が聞こえてきた。
男が帰ってきたようだ。
マルコは何故かひどく安心した。


「(へたくそな唄だよぃ)」


そう思いながら、マルコは男の鼻歌を子守唄に眠りに就いた。



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