男はいつの間にか眠っていたらしい
夕焼けが広がる黄昏時だった窓の外は
深い闇に変わっていた
青い鳥はとんでいった 7
のどの渇きを満たすためにバケツに手を伸ばしたが空っぽだった
そういえば夕食を食べるのも忘れている
夜の森は危険だ
男は決して自ら命を断とうとしない
信じられるものを失って、生きる希望を失っても
そればかりか食事はちゃんと三食摂り、危険と思えば手を引く。
獰猛な動物に襲われれば戦う。
わざと命を落とすようなことは決してしないのだ。
それは男の母の教えがあるからなのだろう。
人は生まれた時、たった一つだけ義務を課せられるのだという。
人の役に立つことをする
人に迷惑をかけない
時代を先導する
そんな大それたことではない
”与えられた生を全うしなさい”
これが唯一課せられた義務だという。
どんなに辛くとも、どんなに危険な目に会おうとも
全力で抵抗しなさい
抵抗して抵抗して、どうしても駄目だった時、助からなかった時がその人の与えられた生
こういうと短そうに思えるけれど
人が全力で抵抗した時の力はすごい
だから意外と長いのだと
彼の母は言った。
彼の母もまた、貧しさと病に全力で抵抗した
しかし、助からなかった。
これが私の与えられた生だった、お前はお前の生を精一杯生きなさい
そう言って彼の母は去って行った。
精一杯生きる。
その言葉に後押しされて彼は海へと出たのだ
親友とともに
そして今、男に与えられた生は続いているのだ。
だから男は生きなければならない。
男がどれだけ死を望んでも、生きなければならないのだ
終わりが来るその日まで
男は再びベットへと身をゆだねた。
不死鳥が寝ていたベットへと。
不死鳥と共に過ごした時間は充実していた。
思わず、へたくそだからやめろと言われ続けた唄を唄ってしまうほどに。
本当に不思議な鳥だった。
心の内を見透かされそうな瞳をしていた。
だから少し嘘をついた。心を読まれないように。
心を読まれればきっとこの美しい鳥は自分の元を去って行ってしまう。
死を望むような者などきっとこいつは相手にしない。
みたいのだ、この美しい翼で大空を舞うように飛ぶ様を
それまでは生きていたいと、思った。
願いがかなったのは突然だった。
美しい鳥は本当に不死鳥だった。
そして、エターナルポースを欲した。
なんて幸運なのだろう。
この美しい鳥は俺につかの間の幸せを与えてくれるだけでなく
俺をこの島に閉じ込めてくれるというのだ
嬉しかった
嬉しくてたまらなかった
これは天が俺にくれた最高のプレゼントなのだ
助けを呼んでくるというがもうそんなことはどうでもいい
天がつかわした鳥ならば、そんなことはしない
この島で俺は与えられた生を終えるのだ
舞うように飛び立っていく、美しい不死鳥を見たとき
俺は嬉しくて涙がこぼれた
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