弱さが罪であるというなら
強さが正義というのなら
善悪は何で図るというのだろう
罪を罪として定めていても
するりと抜け去って正義の名がのさばっている。
誰がために誰が定めたものなのか
本質を忘れた正義に正しさはあるのだろうか
Empty12
からりと晴れた夏の空をもうこの島に麦わら海賊団は停泊するらしい。
流通の拠点として大きく栄えたこの街は活気にあふれ
夏島特有の陽気さが取り巻いている。
色あざらかな衣装に身を包み、軽快な音楽が其処此処に流れ出し
軒先に並んだ色とりどりの果物や野菜、魚介類は目を楽しませてくれる
「いい島だな。」
こういう島の人間は純粋に陽気だ。
しかしその純粋さの下には強かな思惑が渦巻いていることも忘れてはいけない。
気温の高い島というのは人々の頭にも血が上りやすいものだ。
「ここのログは1日あれば溜まるから出発は明日の朝にするわ。サンジくん、食料の調達よろしくね。」
「はい、ナミさん!ここの食材は料理のしがいがありそうなもんばかりです!」
「あたしとロビンは島で宿を取るから、あとは好きにしなさい。」
ナミはクルーにそれぞれ軍資金を手渡した。
それぞれの金額が違うのは何等かに理由があるのだろうか。
気前のいいことに俺にも小遣いをくれるようだ。
今まで上陸した島では逃げ出さないよう船から降ろしてもらえなかったが
今回は上陸してもいいのだろうか。
「海兵、あんたは船を降りてもいいけどルフィと一緒に行動しなさい。」
「は、ちょっと待てよ!なんで麦わらと…!」
「ルフィが相手ならあんたも逃げられないでしょ。しっかり羽伸ばしなさいよー」
「伸ばせるか!」
なんで俺が麦わらと
あの日からナミは意味ありげな視線をくれ、やたらと俺と麦わらをセットにしたがる。
あのロビンまで巻き込んで何やらこそこそと麦わらに吹き込みやがって。
全く女というのは他人の色恋に面白半分に首を突っ込んできやがって、お節介にも程がある。
何を言われたかは知らないが麦わらも麦わらでしおらしくなっちまって
始めの頃のような強引さが嘘のように俺を気遣い、しかし頑なに手放そうとしない。
あー、どうしろって言うんだ。
船番にはロロノアが残されることになり
ウソップやチョッパーも共に行動しようとしたが
一目散にそれぞれの目的の店へと行ってしまい
女達はとっくに街へと繰り出しているし
サンジは早速港の女たちに声をかけどこかに行ってしまった。
結局こいつと二人っきりか。
いや、このまま船に残るという手もあるが
そろそろこちらとしても身の回りの物を補充したい。
手持ちの着替えも本部にさっさと帰るつもりだったから
そんなに持ち合わせておらず、やたらとこまめに洗濯しなくてはいけなくて面倒だし
洗面道具も共有のものを使うわけにもいかないから手持ちのものをちまちまと使ってて地味にストレスだし
やっぱり上陸はしたい。
「なぁ海兵、お前どっか行きたいとこあるか?」
「あー…そうだなぁ、まずは着替えを調達したいな。」
「そうか、じゃあ行くか。」
「ちょ、ちょっと待てよ。お前は上陸したらまずメシ屋なんじゃねぇの?」
「ん、そうだけど。さっき食ったし。お前久しぶりの上陸だしな。」
「そ、そうか…じゃあ、よろしく頼む。」
「ししし、そのあとメシ付き合えよ!」
そのあとは普段の麦わらとは思えないような落ち着きでこちらの買い物に付き合ってくれた。
適当な店で服を買って、マーケットで日用品を調達して
久々の市場の活気に俺も浮かれていた。
市場の出店を冷やかしながら麦わらと歩くのは悪くはなかったのだ。
飯を食うにもまだ時間が早いので夕食までの間俺らは街をぶらぶらすることにした。
南国らしく、色とりどりのアクセサリー店が軒先に並んでいる。
麦わらもこういうものは年相応に興味があるらしく楽しそうだ。
ふと目にとまった露店は、色とりどりの天然石を使ったアクセサリーを扱ったところだった。
不透明な、鮮やかな空を思わせるその石に心奪われた。
なんて、綺麗な色だろう。
輝いているわけではないのに、他の石よりより一層輝いて見える。
空をそのまま石にしたような、いや空の雫がそのまま降ってきたような
そんな石に心奪われた。
「ん、どした?」
「あ、いや…あの石が綺麗で…」
「おお、なんだこれ!空みたいだな!」
「そうだよな、空みたいだ。いいな、これ。」
その露店へと足を進め店先にしゃがみこむ。
その石を使っているものからどれにしようかと選んでいると、隣から腕が伸びてきて
空を閉じ込めた石が濃茶色の皮にビーズとなって長く連なり、何連かにして腕に巻きつけるブレスレットをとった。
「お前はこれがいいと思う。これが一番綺麗だ!」
「そうか?」
「おう、空がいっぱい付いてる!」
「はは、そうだな。じゃあそれにしよう。」
これ、お願いと老婆といって差し支えない店主に渡そうとしたとき
また何かが目にとまった。
それは黒い皮ひもに編みこまれた黒い、いや深い紅が黒く見える石に真ん中には大きさの違う薄桃色の石が3つ挟まれているブレスレットだ。
麦わらに、似合いそうだ。
直感だった。
あまり考えずそのブレスレットを取り、二つまとめて差し出した。
「これ、お願い。」
「それも買うのか?」
「お前に、似合いと思って。買い物に付き合ってくれた礼だ。」
「そ、そうか!ありがとな!」
照れながらも嬉しそうに笑う麦わらに釣られて俺も笑う。
なんか、いいなこういうの。
「はいはい。おや、いい石を選びなさったね。」
「いい石?石に意味があるの?」
「ああ、あるさ。この空色の石は持ち主の大切な一歩を踏み出す力を貸してくれる勇気の石さね。」
つきりと心に痛みが走る。
これは、石に呼ばれたのだろうか。
これからの俺を暗示しているかのような石の意味に一瞬肝が冷えた。
「そしてこっちが持つ人に永遠のパートナーにめぐり合わせ、情熱的な恋をもたらす石。」
「うわ、間違い間違い!これやっぱやめる!」
「な、なんでだよ!俺にくれんじゃねェのかよ!」
「違うのにしよ、違うのに!」
「これがいいぞ!むしろこれじゃないと嫌だ!おばちゃん、はやく会計!」
「あーちょっとおい!」
俺が買うはずだったのに麦わらが強引に会計を済まされてしまった。
これじゃ礼にならないじゃねぇか。
仕方がないので飯代は俺が持つことにしたが
プレゼントされたみたいでなんか釈然としないというかこそばゆいというか
嬉しいけど、ね。
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