自己価値を求めるのは愚かなことなのか
自分の本質を見て欲しかった
ただそれだけだったのに
存在することを求めるのは罪なことだったのか
未だに俺にはわからない
きっとこの先もわからないだろう







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陽が落ちて夕食を求める人々の活気が溢れる街並み
既に夕食を終えた俺と麦わらは人々の流れとは逆行しながら
この街並みを流れていく。
早めに入った飯屋で麦わらの相変わらずの食欲に目を見張ったが
しかし次々と出される料理を贅沢に一口ずつ味わえたのは嬉しかった。
食べきれない分は麦わらへ。
こういう部分では麦わらと食事するのもいいな。


「いやー、食った食った!腹いっぱいだ!」

「そりゃあんだけ食べればな。」

「うまかったなー、肉もいっぱいだったしな!」

「確かにうまかった。」


南国特有のフルーツを使ったソースがふんだんに使われており
量も味も申し分無かった。
しかし毎日となると胃がもたれそうだなぁ。

つらつらと他愛もないことを話しながら船へと足を運ぶ。
女たちは街で宿を取るらしいし、おそらくほかの連中も久々の柔らかなベットを求めるだろう
しかし麦わらはよほどのことがない限り、夜は船へと戻るのだ。
賞金首がフラフラとしていては命がいくつあっても足りないということもあるが
麦わらの厄介事に巻き込まれやすい性質もあってナミに外泊は控えるように言われているらしい。
こいつ自身もそこには執着しないらしくおとなしく従っている。
たまの上陸ぐらい、柔らかい布団で羽を伸ばせばいいのに。


街並みが終わり木々が並ぶ道を進む。
遠くから聞こえる喧騒よりも
虫の声の方が大きく聞こえ
頭上には無数の星空が木々の陰の間に広がっている。

人の気配のない、静かな夜だ。

ぽつりぽつりと話していた会話も途絶えて
ただ無言で並んで歩く。
立ち止まってしまえば、この闇に飲み込まれてしまうのではないかという錯覚さえ感じる。
普段海にいるものにとって久しい緑の自然はあるいみ恐怖なのかもしれない。


「怖いのか?」

「は、え?」

「波の音がないと、こんなに静かなんだな。」

「そう、だな…静かすぎて怖いかもしれない。」

「そっか。」


不意に右手が掴まれる。
驚いて掴まれた方を見ると麦わらが笑顔で掴んだ手を引っ張った。


「これなら大丈夫。」

「…女じゃねんだ、離せよ。」

「いいじゃねえか、怖くなくなっただろ。」

「………ちっ」




右手を包む体温は暖かくて
不覚にも安心してしまった。
暗闇の静寂は俺の相棒のはずなのに
今この静けさが怖くて仕方なかった。
自分がどこにいるのかわからない延々と連なるかのように思えるこの道は
一体どこにつながっているのだろう。
自分はどこに向かっているのだろう。
長い時をかけて固めた信念は、こうも容易く揺らいでしまった。
年若い海賊との出会いがこうしてしまった。


あの時声をかけなければ。


きっと今までどおりに日々を過ごしていたはずなのに。
好奇心は猫をも殺すということか。
いや、遅かれ早かれ自分は疑念を抱いただろう。
むしろもっと昔から、そうだ
ニコ・ロビンとの出会ったあの時から
自分は海軍に疑心を抱いていたのだ。
気づかないふりをしていたけれど
それにも、もう限界が来たのだろうか。






「なぁ、海兵。」

「…なんだ?」

「お前の手、あったけぇな。」

「お前もな。てか暑いから離せ。」

「やっぱこのブレスレット似合ってる。」

「俺も気に入ってる。自分で買いたかったのに…」

「ししし、いいじゃねえか。お前が買わないとか言うからだろー」

「それはこっちじゃなくて…」

「俺もこれ気に入ってるぞ、サンキューな。」

「自分で買ったくせに。」

「お前が選んでくれたんじゃねーか。」

「まぁ……無くすなよ?」

「おう!戦う時はお前に預ける!」

「真っ先に投げ捨ててやる。」

「なんでだよ!」






つないだ手を挟むように今日買ったお互いのブレスレットが煌めく。
そこへ、ふわり、と光が落ちてきた。


「あ、ホタル…」

「ホタル?」

「光る虫だ…ほらあれ!」

「おお!ホントだ、光ってる!」




光を追って麦わらは駆け出す。
繋いだ手はそのままで、俺も引っ張られて走り出す。
ホタルは俺たちを導くかのようにふわりふわりと踊るように森の奥へと飛んでいく。
いつの間にか、俺も夢中で蛍を追いかけていた。

あの光を捕まえたい一心で
俺たち二人は手を強く握り追いかけた。























「あれ、見失ったかな…」

「ちぇー捕まえたかったぞ。」


森の奥へ奥へと進むうちにすっかり道を見失い、ホタルも見失ってしまった。
引くに引けない状況に今更ながら後悔している。
なぜあんなに夢中になって駆け出してしまったのか。
どうも麦わらといると調子が狂う。








「あ!奥でなんか光ったぞ!」

「ちょ、ちょっと!おい待てよ!」

さらに奥へ奥へと引き込まれていく。
さすがにこれ以上は戻れなくなると踏ん張ったが
麦わらはお構いなしに俺を引き込んでいった。
未知の領域へ躊躇なく踏み出せる麦わらと










たどり着いた先にあったのは、闇の中に光り輝く一本の木だった。










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