認めて欲しい。許して欲しい。
俺はどこに行けばいいのですか。
誰に許しを請うているのか
それすら忘れてしまっているのに
Empty16
朝日が昇り人々の活発な動きが島を駆け巡る。
市場は賑わい店々の呼び声や子供たちの駆けまわり遊ぶ声が平和に響いている。
出航は人目に付かぬように夜明け前の予定だった。
海兵と共に行動していたキャプテンが戻ってこない。
この失踪が海兵のみであったなら
こうなることは予想していた。
もともと彼の意に沿わぬ乗船であったし我侭に付き合ってもらっていたのだから。
こちらの情報を利用されてもそれは海賊と海軍の立場なのだから当たり前で
彼が海軍の手引きをしたって恨むのはお門違いなのもわかっている。
だからといってキャプテンであるルフィのみを連行するなんて
彼のこちらに対する態度は友好的であったと思う。
そして悪いようにはしないと散々言っていた彼を好意的に思っていた。
だから、なるべくなら信じたくないんだ。
ナミを船に残し、クルー全員で島中を駆けずり回り探し回る。
どうか何かの間違いであってほしい。
「どこにいんだよ、クソ野郎が!」
ルフィが行きそうな飯屋や露店を当たっても
街行く人に聞きまわっても
これといった手がかりは掴めなかった。
アクセサリーを扱う露天の老婆が昨日ここに立ち寄ったと言っていたが
その後どこへ行ったかはわからなかった。
昨日から今朝にかけて出航した船はまだなかったから
まだこの島にいるはずなのだ。
後、探していないのは島の半分を占める鬱蒼としたこの熱帯雨林の中だ。
この広大な森を探して見つけられるのか。
そう思うよりも行動を起こすことしか今のサンジにはできない。
街からメリー号へと続く林道を早足で辿り、あたりに気を配っていると
脇の森へと人が分け入ったような形跡があった。
この先に、どうか…
縋るような気持ちで駆け出す。
どうかあの海兵の裏切りでありませんように。
※ ※ ※
「…ぃ、おい!てめぇら何呑気に寝てやがる!」
「んぁ…おうサンジ!あんまでっけー声出すなよ、起きちまうだろ。」
クルーが心配の限りを尽くして、駆けずり回っているというのに
見つけた目的の奴らは呑気に寝こけていやがった。
しかも、ルフィはその腕の中に海兵を収めてご満悦な締りのない顔をしているときた。
2,3発蹴り上げても罰は当たらないんじゃないか
怒りが沸点をはるかに上回り言葉が続かない。
人間は怒りが頭にきすぎると言葉が出ないもんなんだな。
「ん、朝…?」
「あー起きちまった。」
「あれ、ここ…俺何を…?」
寝ぼけ眼を擦りながら海兵が目覚める。
やはり締りのない顔のままルフィの野郎はまるでレディを扱うように海兵を扱い
意識のはっきりしていない海兵の頬にしきりに唇を落とし始めた。
海兵はくすぐったそうにしながらも甘んじて受け入れており
その様子はまるで…
「いやいやいや!何やってんだお前ら!!」
「ん…えっと……あ、ああサンジ!ちょ、麦わらやめろ!あれ?今何時だ!?うわ船、船に!!!」
「お、落ち着け海兵…まだ出港してねぇよ。」
「そっか、サンジ!サンジ!?あ、探しに来てくれたのか…?」
「まぁ…」
「そっか、ありがとう!よかったぁ…置いていかれなくて…」
本当にホットした様子で息を付く海兵
いや、これは本当にあの海兵なのか
雰囲気が丸くなったというか
いつもそこにある壁が無くなっている気がする。
「船長がここに居んだから置いくわけねーだろー」
「てか麦わら!お前が起こすから寝ていいって言ったくせに!」
「起こすとは言ってねぇ!」
「威張ってんじゃねぇ!」
ぐちぐちと考え悩んでいたことが杞憂に終わって
良かったのか悪かったのか、素直に喜べない状況だ。
ルフィの奴、そういうことだったのか。
海兵に突っかかって行ったと思ったら
独占欲丸出しで片時も離れなかった。
いつもの強引な勧誘にしては様子がおかしいとは思っていたが
まさか惚れていやがったとは。
こちらに多大な心配をかけている間、こいつらは睦ごとを言い合い
愛情を深め合っていやがったという訳か。
「ふざけんなクソ野郎どもが!」
「うお、危ねぇ!!」
海兵をかばいながら避けるルフィと満更でもなさそうな海兵
その二人の姿にズキリと胸が痛む自分が一番のクソ野郎だ。
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