その日が来るまで
どんな辛いことにも耐えてみせましょう
その日が来るまで
だからどうか忘れないでください




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へらへらと笑いながら帰還した我らが船長
その傍らにはいけ好かないあの海兵がまだ居やがった
さっさと出ていけばいいものをまだここに居座るつもりなのか。
せっかく出て行く機会を与えてやったというのに

ナミに海兵をそろそろ街に出してやってもいいんじゃないかと言ったのは自分だ

これ以上ルフィがおかしくならないようにしなければいけない。
ルフィの海兵に対する執着は少し異常だ。
常に隣に付き添い、他の誰かが近付こうもんなら不機嫌そうに睨みつける始末
命を預けるクルーにする態度じゃないだろうが。
終いにはこの俺に海兵と仲良くしろとまで言いやがった。
ふざけやがって。誰の為に憎まれ役やってると思ってんだ。



「いやー悪ぃ!遅くなっちまった!」

「ルフィーあんたねぇ!」

「すまん、悪かった、許してくれ。」

「そんなにやけた顔で言われても説得力ないわ!今度やったら罰金だからね!」

「おう!」

「あんたもよ海兵!」

「え、俺も!?」

「当たり前じゃない!ホントもう…こんなに心配かけてくれちゃって…」

「ふふふ、航海士さんの取り乱し様は凄かったわ。」

「う、うるさいわねロビン!ほら、さっさと出航するわよ!」




なんで帰ってきやがった。
どいつもこいつも浮かれやがって、海兵が戻ったことがそんなに嬉しいかね。
危険分子が2つ、状況は変わらない。
特に海兵は気をつけなければ。
くそ、なんでこの俺があんな奴のために心砕かなきゃなんねぇんだ。

これ以上この船を掻き乱すのはやめてくれ。








※  ※  ※







話があるとルフィが言いだし食堂に全員集められた。
話の内容は案の定海兵に関することだった。
ルフィの横には所在無さげに海兵が並んでいる。

「海兵なんだけどよ、こいつは次の島で降りることになった。」

ナミやウソップ、チョッパーは驚き声を上げていたが
俺を含めた他の奴らはある程度予想しており黙って話を聞く。


海兵は今は仲間になれない
一旦海軍に戻るけど、そのあと戻ってきて仲間になる
こいつはもう俺のだから



ルフィの話は簡潔すぎたが、大体はわかった。
何があったかは知らないがとうとう海兵が折れたんだろう。
しかし、やはり俺はこの海兵が後々でも仲間になるのは納得できねぇ。


「おい、ルフィ。」

「なんだゾロ?文句あるか?」

「ある。俺は認めねぇ。」

「なんでそんなに嫌がんだ?こいつ悪い奴じゃねぇぞ?」

「そういう問題じゃねぇ!そいつは海兵だ。こいつの言ってることが全部信じ切れるわけねぇだろ。」

「だから、海兵辞めるって言ってんじゃねぇか。それでいいだろ。」

「嘘だったら?仲間になるフリして海軍の手引きが目的だったら?」

「うっせぇゾロ!これは船長命令だ!」

「……ちっ、付き合ってらんねぇよ!」


これ以上は話にならない。そのまま食堂を後にする。
呼び止める声も聞こえたが無視してそのまま船尾へと足を進めた。

ルフィとは長い付き合いだがこれほど対立したのは初めてだろう。
何故これほど自分が反対しているのか、実際は俺自身もよくわかっていない
そんな部分もあってか俺はいらいらと気持ちがささくれだって八つ当たりしている












ルフィとは長い付き合いだ。この船の誰よりも。
だからという訳でもないが考えていることは口に出さずとも分かるし
分からなくとも俺が良いと判断したことは大概が事をうまい方向に持っていった。
自分がこの船の要であることは自負している。
そして船長がどれほどの価値があるかということも分かっているつもりだ。
無理矢理な誘いで海賊になったこの身だが、なったからには筋を通す

それなのに、だ。

あの海兵は気に入らない。
野獣と呼ばれた俺の勘がそう訴えているというのに
あいつらは海兵、海兵と持て囃して心許している。
今回のこの騒動がいい例だ。
ルフィを心配するのと同じくらいに海兵の裏切りでないことを祈っていやがった。
海兵なのだから裏切るのは当たり前だろう。
何故そう思えるのか、俺には理解できない。


「どいつもこいつも馬鹿ばっかりだ。」

「あら、あなたはそうじゃないと言い切れるの?」

月の光が心もとなく照らしている甲板に、ニコ・ロビンは薄く笑いを浮かべて立っていた。
気が付かなかった。
それほどまでに心が乱れている自分に余計に腹が立つ。

「ちっ…何のようだ?」

「海兵さんが嫌いなの?」

「…てめぇとそんな話するつもりはねェよ。失せろ。」

「うふふ、いいわよそれで…心なんて許さないでいいわ。でもね…」

ニコ・ロビンの顔が近づいてきて、その鼻筋の通った顔が目の前に突き出され
薄ら笑いは今までどおりなのにその眼は強く圧倒される。



「男の嫉妬は、醜いわ。」





それじゃあね、と言い残して女は去っていった。
嫉妬だと?誰が誰に?

ああ、もう考えるのは辞めにしよう。
これ以上考えてたってたどり着く答えはあの女が持って行ってしまったんだろうよ。
心身統一してこその剣士なのに、なんてザマだ。







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